ここ二三週間はなんやかんやで忙しくてきつかった。
三つ折りのままの布団で寝るのは体に良くないですね。
地下700mの穴ぐらにいるよりはましでしょうけど。

先々週の土曜は地元の友達のウェディングパーティがありました。
挙式の日とは別日で、主に友達を呼んでのカジュアルなパーティだったんですが、
僕は幹事の大役を仰せつかったのでした。
幹事は7名+αで、僕の正式な役職名は総合プロデューサー兼サウンドコーディネイターでした。
これは荷が重い!
その他にディレクター、司会、会計などを決めてたんですが、
結局、当日はそんなの在って無いようなものとなりました。
まぁみんな素人なんで、全員攻撃・全員守備みたいな形ですね。

素人、とは言ってみたものの、僕はブライダル音響の仕事をやってたのでこれは嘘になりますね。

I'm a liar
and a survivor(作詞 つるみ)

一応、自称プロということで当日はミキサーを持ち込みました、
パーティの二時間前に買ったやつを。
プロは、やはり、自分のやり方を持っています。
ミキサーは無くてはならない機材だったのです。
問題は接続するケーブルです。
会場はレストランだったので、
音響機材が豊富にあるとは思えません。

プロは気づきました。
「ミキサーだけでは駄目だ、ケーブルも必要だ」

そして、どのケーブルが必要かどうか確認するべく、
プロは、レストランの従業員と連絡をとりました。
プロは連絡するにあたって「携帯電話」という手段を選びました。
「携帯電話」は革命的なツールです。
あなたの可能性を限りなく広げてくれます。
自宅の電話や公衆電話を使わなくとも、
どこもで電話することができます。

プロは気づきました。
「携帯電話にケーブルは必要ない、だが、今の私には必要だ」

確認するべき項目を紙に箇条書きにし、
ペンを片手に電話をかけました。
これがプロのやり方です。
プロの会社員、プロの公務員、プロの馬券師、そしてパチプロ、みんなこれを習得しています。

プロが知りたかったのは、
店のスピーカーに自分のミキサーを繋げるにはどのケーブルが必要か、ということです。
オーディオ機器を繋ぐケーブル(厳密には端子)は何種類かあります。
穴の形に合わせてケーブルの先端を選ばなければならないのです。
それぞれちゃんと名称があり、
たとえば、「XLR(キャノン)」「フォーン」「RCA(赤白)」などです。
これらの意味するところを知る者同士であれば、意思疎通は一瞬でできます。
電話で「フォーン」と言っても、メールで「フォーン」と打っても、
「フォーン」と書いたものをFAXしても大丈夫、
犬を「フォーン」と鳴かせても問題ありません。


そして、電話がつながりました。
大事なところは後回しにして、
まず瑣末な確認事項から片付けました。
その中で、担当の人は「赤白」とか「ミニプラグ」という単語を口にしていました。

プロは思いました。
「彼もプロなり」

安心したプロは、意気揚々と本題を切り出しました。
ミキサーから音声を送りたいがどのコネクタがよいか、と。
すると、担当の人はモゴモゴしてしまいました。

プロは気づきました。
「彼、実はそんなに詳しくない」

でもプロはこれに備えていました。
そもそも、彼は音響のプロではなく、
おいしい食事と楽しいひと時を提供するプロなのです。
プロは彼に、穴の形状がどんなものであるかを尋ねました。
彼は説明に窮してしまいました。
プロは続けます。

プロ「穴は小さいですか?」

彼「いえ、おっきいです!」

プロ「では穴は二つありますか?」

彼「えーと、たぶん一つですね・・・」

プロ「え?ひとつ?!」

彼「いや!二つかもしれません!」

プロ「・・・赤と白のやつですか?」

彼「んー、違うみたいです」

プロ「穴の中に穴が三つありますか?キャノンですか?」

彼「いや、普通の穴ですね、一つの普通の穴です」

プロ「普通の穴ですか。普段挿してるプラグはフォンですか?ipod用のが太くなったかんじ」

彼「そうですね、太いです」

プロ「先っぽに黒い線が二本はいってますか?ステレオですよね?」

彼「あります!二本の黒い線。あります!」

プロは確信した
「私に必要なのは二本の黒い線が入った太めのケーブル
 すなわち、
 ステレオフォーンケーブルだ!」

プロはステレオフォーンケーブルを購入し会場へと急いだ。
道すがら、プロは少しだけ不安になった。
このタイプのケーブルは現場であまりみかけないが・・・・・・

プロは会場入りした。
プロという人種が現場に到着したことを示すには、
「入り」という言葉がぴったりだ。
「はいり」ではなく「いり」である。
電話で応対してくれた彼が迎えてくれた。
挨拶もそこそこに尋ねる
「例の穴はどこですか?」
彼が案内してくれた。
穴は、壁の下の方にあると彼は言った。
穴のすぐそばにはテーブルが据えられ、クロスがかかっていた。
穴というものは基本的に隠すべきものなのだ。
プロは手早くクロスをめくり上げ穴をさがした。

プロは気づいた。
「穴が、無い。ここに俺の探していた穴は無い」

プロの、先っぽに二本の黒い線が入った太めのケーブルをさしこむことのできる穴は無かった。
かわりにあったのは、赤い穴と白い穴が一つずつ。
赤と白のプラグが無言で突き刺さっていた。

プロは担当の彼に微笑んだ。
「ありがとう」


そんでな、赤と白のプラグを抜くとな、穴から33人の南米人が出てきて、
宴をたいそう盛り上げたっつぅ話だ。
めでたし、めでたし。



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